LIFE くらす

自ら選んだ道に向かい、まっすぐに挑み続け輝くひと。

MY WAY PEOPLE 作家 こだまさん

掲載号:ヨミウリウェイ 2019年6月10日号

「おとちんを もう一度山形で」

衝撃的なタイトルで注目を集めた「夫のちんぽが入らない」。夫婦の性の不一致や、そこから生ずる悩みや心情を綴った私小説が共感を呼び、2017年の発売から累計23万5000部を突破。漫画化・文庫化、2019年には実写ドラマになり、一部の撮影は山形市や鶴岡市で行われました。今回は原作者であるこだまさんにお話を伺いました。

デビュー作となった「夫のちんぽが入らない」が発行されるまでの経緯を教えてください。2014年に同人誌即売会である文学フリマで「なし水」に寄稿した短編が始まりだとお聞きしました。

 原作は仲間3人と作った合同誌に寄稿したエッセイでした。ブログには仕事や家族の話を綴っていましたが、紙の本として売るのは初めて。仲間から「中途半端なものではなく、今まで書いたことのない話を」と発破をかけられ、誰にも話したことのない夫婦間の赤裸々な性の悩みを書きました。挑発されて悔しくて書いた、というのが本音です。
 交際から20年くらい経つのに性行為がずっとうまくいかない。周囲からの「子どもはまだ?」という圧力。教師になって学級崩壊を経験し、精神状態が危うくなる。その反動で出会い系の男性と会う。夫は風俗に行く。軽蔑されるような半生だったから、ずっと黙っていました。
 合同誌を読んだ人がネットに感想を上げると、その「入らない」という現象の珍しさもあって一気に広がり、コラムのお仕事をいただくようになり、その担当さんから声を掛けていただき書籍化が決まりました。

おとちんを発行されてから2年が経ちますが、出版当時の反響、もし変化してきた部分があれば教えてください。

 一番驚いたのは、私も「入らないんです」と告白されたことです。かれこれ数十人くらいに打ち明けられました。身体的、心理的に挿入が困難で、拡張する手術を受けたり、病院に行ったけれど原因はわからないまま夫婦関係を続けていたりとそれぞれでした。他の人たちも「自分だけだと思っていた」と誰にも話せなかったそうです。
 また、性の悩みだけでなく、私の内向的で自罰的で周囲とうまく関われない性格に共感してくれる人も多かったです。私の場合は、子どものころから母の威圧的な言動に萎縮し、周囲の顔色を窺い、主張をほとんどしてこなかった。もう大人なんだから変われるはず、と思うけれど、同じような悩みを抱える人たちと言葉を交わすうちに単なる性格の問題ではないこともわかってきました。自分が何に苦しんでいるのか明らかにしたい。そう思い、出版から2年経ったいま、心療内科に通うことにしました。まだ答えは見つかっていませんが、自分の中に「変わりたい」という気持ちが湧き上がっています。
 溜めていたものを吐き出すように書いた結果、自分自身を救い、同じような思いをしている人に寄り添うものになれたら嬉しいです。

こだまさんの文章は、深刻さと笑いのバランスが絶妙で、ぐいぐい引き込まれてしまいます。このバランスについては意識されているのでしょうか。

 病気や仕事、性の話など、本の内容自体は重いと思います。でも、単に同情を引いたり、説教じみたり、良い話として落着させたりするのは嫌でした。作品に限らず、普段の会話の中でも悲しい話で涙を誘うのはありきたりで気恥ずかしさがある。私はいくつか病気をしていて、指の関節がグシャッと折れ曲がっているのですが、やっぱりこれも「かわいそう」じゃなくて、笑ってほしい。笑っていいのか泣いていいのか、感情がごちゃまぜになるものを意識して書いていきたいです。

教職を辞しても「自分の帰る場所」として戻ってくる。学校が恐怖の場所であっても、そこが帰る場所になっていたのはなぜだったのでしょうか。

 退職後に小学校の臨時教諭、塾講師、児童館職員、特別支援学校の指導員などに就きました。痛い目に遭ったのに教育現場に戻ってしまうのは、やはり学校という何が起こるかわからない場所が面白くて好きなんだと思います。

「ひとつの家で、男でも女でもない関係として暮らす。他人からは異常に見えるかもしれないけれど、私たちは隣り合って根を張る老木のように朽ちていければ幸せだ。(あとがきより)」という言葉が印象的でした。私たちは「普通」であることに縛られすぎているのかも、という思いに駆られます。

 そう思えるまで20年かかってしまいました。世の中の「普通」を押し付けられることが苦しかったけれど、「普通」に誰よりもこだわっていたのは私だったと思います。まわりと違ったってかまわない、夫婦がお互いに納得していればそれでいいんですよね。

作品中では老木や植物など、生きることについて語るときに植物を用いるところが印象的ですが、どんなイメージをお持ちですか。

 あまり意識せず書いていましたが、大自然の中で暮らしているのが影響していると思います。見渡しても目に入るのは山や樹木や草花ばかり。生命の象徴を人間よりも自然の中に見出すのは、私に子どもがいないことも関係している気がします。

連続ドラマの「夫のちんぽが入らない」をこだまさんはどのような気持ちでご覧になっていたのでしょうか?

 ドラマの中の夫婦と自分を切り離して観ていたつもりですが、何度も心が押し潰されそうになりました。顔を合わせるたびに関係がこじれる主人公と母親、そして夫目線で描かれるシーン。夫は何も言わなかったけれど、私が自宅や職場で無理をしていることにずっと気付いていたのかもしれない、悩みを打ち明けてくれるのを待っていたのかもしれない、と苦しくなりました。

小説・漫画・ドラマについて。それぞれの違いについてはどう捉えていたのでしょうか?

 小説は私の独白でした。ゴトウユキコさんが手掛ける漫画は原作をなぞりながら展開していますが、ふと見せる夫の寂しげな表情や背中が印象的でした。私が見落としていた日常の夫の姿をゴトウさんは見事に掬い上げ、「私たちの生活を見ていたのでは?」と驚くほど完全な形で描いて下さいました。
 タナダユキさん演出のドラマは、原作にない展開が多々あります。私にはできなかった夫婦や親子のぶつかり合い、そして自分たちで出した答えのままに胸を張って生きる。こんな夫婦がいてもいい、そう前向きになれる作品でした。

ドラマではこだまさんと旦那さんが学生時代を過ごしたの「東北のとある地方都市」として、山形がロケ地に選定されました。山形に対するイメージと、こだまさんが学生時代を過ごした「とある地方都市」のイメージで共通する部分がありましたら教えてください。

 山形で撮影された学生時代のシーンを観て、とても懐かしい気持ちになりました。私の暮らした古ぼけたアパートや小さな商店街がイメージ通りに再現されていた。中でも、思わず息を呑んだのは夜の街灯りです。明る過ぎない。適度に闇があって、ぼんやりとネオンが灯る。この絶妙な夜の加減は、私の見てきた風景でした。

 私は自然豊かな土地で生まれ育ったので、画面に映し出された山形の温かみのある風景に故郷を重ねながら観ました。ドラマのロケは、現地の方々が大変協力的だったとお聞きしました。とても感謝しています。こんな口に出しにくいタイトルではありますが、「普通」になれないことに悩む夫婦、親子のあり方、教師と生徒……形は違っても誰にでも思い当たる普遍的な問題が含まれています。配信されているドラマをご覧になっていただけたら嬉しいです。そして、もしもご縁がありましたら映画の応援もお願いいたします。

もし山形にいらっしゃったら食べたいものなど、ありましたら教えてください。

 果物が大好きなので、さくらんぼ狩りに行ってみたいです。山形の獲れたてのものを食べてみたい。ご当地グルメで気になるのは芋煮ですね。実は芋煮そのものを一度も食べたことがないので味わってみたいです。

「夫のちんぽが入らない」
講談社
600円+税
「ここは、おしまいの地」
太田出版
1,200円+税
マンガ: 「夫のちんぽが入らない(1)(2)」
ゴトウユキコ/原作 こだま
講談社
680円+税

連続ドラマ『夫のちんぽが入らない』
FOD、Netflixにて配信中
  伊野尾書店訪問時のもの。
発売当初「どうしても読んでもらいたい本」と書名を伏せた独自の展開をしてくれた書店も。
プロフィール こだま

著書「夫のちんぽが入らない」は文庫化、漫画化、映像化され大きな反響を呼ぶ。現在「クイック・ジャパン」で連載中。


最新の情報とは異なる場合がありますので、ご確認の上、お出かけ下さい。

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